メタボ改善で高血圧と痛風のリスクが低下する
あくまでもイメージの話ですが、痛風は、お酒をよく飲む人や食生活が乱れている人に起こりがちな印象があります。加えて、これらの人は、高血圧や脂質異常症など、いわゆるメタボリック症候群の傾向があるようにも思います。
このような印象は、必ずしも的を外している訳ではありません。実際、多くの医療機関や研究機関において、メタボリック症候群・高血圧・痛風との関連性が客観的データを伴って証明されています。
高血圧になると高尿酸血症を起こしやすい
高尿酸血症予防の啓蒙に熱心な「三豊・観音寺市医師会」(香川県)では、その公式ホームページにおいて、次のような解説をしています。
「高血圧と高尿酸血との関連はかなり以前から指摘されています。高血圧の方の20〜40%で尿酸値が高く、痛風の方の約30%の方で血圧が高いと言われています。 高血圧になると腎臓の血流量が減少し腎臓内に乳酸が増えると、尿酸を尿に排泄する機能が低下し尿酸値が上がると考えられています。」[注1]
高血圧の人の20~40%に高尿酸血症の傾向があり、かつ、痛風の人の約30%に高血圧の傾向がある、との説明です。これらの数字を見る限り、高血圧と痛風との間に関連性があることは明らかでしょう。
また、2015年に行われた第4回臨床高血圧フォーラムで会長を務めた土橋卓也医学博士は、その研究論文の中で次のようなデータを示しています。
「国立病院機構九州医療センター高血圧外来で調査した降圧薬服用者667名(男性308名、女性359名)における高尿酸血症(※)の頻度は男性で40.6%、女性で8.6%と特に男性で高頻度に認めた」[注2]
※尿酸値>7mg/dlまたは尿酸降下薬服用者
男性の高血圧患者のうち、実に40.6%に高尿酸血症を認めた、というかなりショッキングなデータです。
なお、同論文を発表した土橋石博士は、高血圧と尿酸の関連性を研究する日本の第一人者。博士の見解は、国内の痛風研究に対して大きな影響力を持ちます。
高尿酸血症になると高血圧を起こしやすい
一方、上記の土橋博士は同じ論文の中で、国内外11の研究データを基に、次のような見解も示しています。
「高尿酸血症者における高血圧発症の相対リスクは1.41と有意に高く、1ml/dlの尿酸値の上昇により高血圧発症リスクは13%症状すると考えられた。これらの成績は尿酸値の上昇自体が高血圧のリスクとなることを示唆している」[注2]
博士は、高血圧が高尿酸血症のリスクになると指摘している一方で、逆に、高尿酸血症もまた高血圧の発症リスクになると指摘しています。
高血圧と尿酸値の関連については、以上の他にも世界中で多く行われています。まだ研究途上の感は否めませんが、結論として「高血圧は痛風と密接に関連している」という点は確かでしょう。
仮面高血圧について
仮面高血圧とは、まるで仮面をつけているかのように隠れた症状があらわれる高血圧です。独特な症状の出方によって、一般的な高血圧よりも気づかれにくく危険なこともあるため、しっかりとチェックして見逃さないようにしましょう。
特徴
病院では正常血圧に
仮面高血圧のいちばんの特徴は、正常血圧になることもあるという点です。病院では正常なのに、家に帰ると高血圧となってしまい、病院のみで血圧を測っていると高血圧かどうかがわかりません。家庭では高血圧なのに一時的に正常血圧になる様子が、正常血圧という仮面をつけているようにも見えることから、「仮面高血圧」と呼ばれています。
早朝・夜間などに高血圧になることも
病院と家で、血圧が大きく変化するのが仮面高血圧の特徴。中には早朝や夜間に高血圧となるケースもあります。これらは「早朝高血圧」「夜間高血圧」などと呼ばれる症状で、一般的な高血圧よりもハイリスクです。特に夜間は低く、早朝に急上昇することを「モーニングサージ」と呼び、心疾患リスクも一般的な高血圧よりも上がります。夜間高血圧は、夜の間ずっと血圧が下がらない状態を指す名称です。
ストレス高血圧も
ストレス高血圧とは、ストレスによって血圧が上がってしまう状態のこと。仕事中になる人もいることから、「職場高血圧」とも呼ばれています。仕事中はずっと血圧が高い場合もあれば、ストレスを受けることで長期に渡って血圧が高い状態が続いてしまうなど、さまざまなケースがあるようです。大きな地震の際、脳卒中などで亡くなった人の中にも、ストレス性高血圧が関係していたと考えられています。
リスク
病院で発見されにくい
病院の中では正常血圧になるというのが仮面高血圧の特徴。仮面をかぶっているようにも見えるせいで、高血圧の症状が医療関係者からは見えにくくなりがちです。仮面高血圧の人は、病院で血圧を測ったときに正常値となるため、自分が高血圧ではないと思っていることもあります。医師の前では血圧が上がらないため、発見が遅れて症状を放置するのは要注意。動脈硬化が進んで、脳や心疾患のリスクが高くなると考えられています。
脳心血管疾患が一般的な高血圧より早く進行
アメリカのコロンビア大学で行われた研究では、一般的な高血圧の症状の人と比較して仮面高血圧の人の方が脳心血管疾患リスクが高くなることがわかりました。正常血圧の人に比べると、脳心血管疾患のリスクは一般的な高血圧では2.94倍となりますが、仮面高血圧の人ではリスクは3.86倍に。さらに深刻な結果となりました。このことから、一般的な高血圧の人よりも仮面高血圧の人の方が病気が速く進行しやすく、危険度が高いと言われているのです。
持続性高血圧について
持続性高血圧というのは、いわゆる一般的な高血圧のことを指します。常に血圧が高い状態であり、仮面高血圧のように一時的に下がることはありません。脳卒中、心疾患、腎不全、血管疾患などのさまざまな疾患のリスクを高める、循環器病の最大の危険因子と考えられています。
特徴
慢性的に血圧が高い
持続性高血圧の特徴は、慢性的に高い血圧が続くこと。人間の血圧は、体を動かしたり寒くなったりしたときに一時的に上昇することがあります。こうした一時的な上昇は健康な人でも起こりますが、安静の状態にもかかわらず血圧が正常値より高い場合には、高血圧と診断されるのです。血圧が高い状態が続くと、血管の内側の壁が傷つき、柔軟性を失うことで動脈硬化のリスクを引き起こします。
体質でなりやすい
高血圧の症状がある日本人のうち約半数は、もともと高血圧になりやすい体質を持っていると言われています。親から遺伝的体質を受け継いでいることでなりやすくなり、両親ともに高血圧の場合には特にリスクが高くなるようです。体質として考えられるのは、塩分の影響を受けやすい、カルシウムの調節がしにくいなど、さまざまなケースがあります。
生活習慣にも問題が
高血圧は、遺伝的な問題のほかにも、環境要因が関係することで発症しやすくなります。高血圧を引き起こす大きな原因となっているのは、毎日の生活習慣です。高血圧をリスクを高める生活習慣としては、食塩の取り過ぎやストレス、アルコールの飲みすぎ、運動不足やミネラルの不足などがあげられます。また、食べ過ぎによる肥満も要注意です。
リスク
循環器系、脳の病気のリスクが高い
持続性高血圧の人は、循環器系や脳の病気のリスクが高くなる傾向にあります。脳の病気とは、脳出血や脳梗塞など、心臓の病気は左室肥大や狭心症、心筋梗塞などです。また、それ以外にも蛋白尿や腎不全などの腎臓疾患、動脈硬化性プラークや大動脈解離などの血管疾患、高齢者の認知症なども高血圧でリスクが高くなると言われています。高血圧性網膜症という目の疾患もあります。
無症状でリスクを高める
高血圧は基本的には目立った症状がないため、本人の自覚症状がないことも多いものです。中には頭痛や頭重感、ふらつきや動機などが起こることもありますが、多くの人は無症状のうちに高血圧が進行。ひそかに心臓や血管がむしばまれていくのです。このことから、高血圧は「サイレントキラー(沈黙の殺し屋)」と呼ばれ、恐れられています。
年齢にかかわらず危険がある
年齢・性別にかかわらず、高血圧には注意が必要です。高齢者になると高血圧の人も多く、脳卒中などの発症率も高まります。しかし、循環器病の相対的な危険度について考えるなら、若・中年者もリスクは小さくありません。最近では、30歳代や40歳代の比較的若い層でも高血圧が増えており、約半数の人が高血圧の状態とも言われているのです。ただし、若い年齢層は、高齢者と比べると生活習慣を見直すことで血圧を下げやすく、回復が速い面もあります。
白衣高血圧について
高血圧の症状としては、仮面高血圧のほかに「白衣高血圧」と呼ばれるものもあります。この症状も一時的な高血圧の症状であり、仮面高血圧、持続性高血圧とともに注意が必要な症状の一つです。
特徴
仮面高血圧と逆の症状
白衣高血圧は、仮面高血圧とは全く逆の症状が起こるのが特徴です。仮面高血圧は、病院内で血圧を測ると正常血圧となり、家庭で測ると高血圧となりました。しかし、白衣高血圧では、病院の診療室で測ると血圧が高くなり、家庭では下がって正常血圧となるのです。症状は逆ですが、どちらも同様のリスクが示唆されています。
白衣を見て緊張することで血圧が上がる
その名前の通り、白衣を着ている医師や看護師などに血圧を測ってもらうと起こる症状が、白衣高血圧です。白衣の医師や看護師を見るとつい緊張してしまい、血圧が高くなることが多いことからその名が付きました。これ以外にも「白衣現象」とも呼ばれるものがあります。白衣高血圧は家庭では正常血圧なものの実際は高血圧で、病院でさらに高くなる現象です。
緊張が解ければ改善することも
白衣高血圧は、基本的には緊張によって起こるもの。そのため、緊張やストレスが解けることで自然と改善することもあります。しかし、その環境に馴染むまでは、無理に白衣高血圧を治そうとせず、受け入れながら家庭でも血圧を測り続けることが大切です。白衣高血圧は緊張しやすい人に多く見られますが、そうではない人にも起こることがあり、誰でもリスクはあると言えます。
リスク
本物の高血圧になる可能性あり
ほかの高血圧と比べて、白衣高血圧はリスクの低い高血圧と言われてきました。ところが、近年では白衣高血圧も注意が必要だと考えられるようになってきています。白衣高血圧の人は、しばらくすると持続性高血圧になることも多く、早めに家庭での血圧測定や生活習慣を改善するなど、対策を行うことが大切です。
適切な血圧の診断が必要
白衣高血圧の場合、病院内で医師や看護師によって測定された血圧だけで診断するのはリスクとなります。緊張によって上がった血圧をもとにして薬の処方をしてしまうと、通常の生活では下がり過ぎになってしまう可能性があるのです。そのため、白衣高血圧の恐れがある人は適切な血圧の診断と、家庭での測定が大切になります。
高血圧と高尿酸血症のベースにあるのはメタボ?
上で紹介した「三豊・観音寺市医師会」の公式ホームページでは、高血圧と高尿酸血症の関連以外にも、「肥満と高尿酸血症」「脂質異常と高尿酸血症」「耐糖能異常と高尿酸血症」の関連を指摘しています。
この指摘の結論の一つとして、メタボリック症候群の人、またはメタボリック症候群の予備軍と指摘された人に対し、尿酸値の抑制を呼び掛けています。
メタボリック症候群とは
メタボリック症候群とは、腸の周辺や腹腔内にたまっている内臓脂肪の蓄積が原因で、高血圧や脂質異常症などの生活習慣病が併発している状態のこと。メタボリック症候群の状態が長期化すると、糖尿病を発症したり、心筋梗塞や脳梗塞の原因となる動脈硬化を生じたりなど、命に関わる病気に発展するリスクがあります。
メタボリック症候群を改善すれば丸く収まる?
高血圧が先か高尿酸血症が先か、という議論は、痛風患者に取ってみれば、鶏が先か卵が先か、という議論のようなものかも知れません。「三豊・観音寺市医師会」による、メタボリック症候群と高尿酸血症との関連に注目し、痛風患者または高尿酸血症の患者は、第一にメタボを改善させることが大事でしょう。メタボを改善させれば、痛風を始めとした高尿酸血症の症状が快方に向かう可能性があると考えられます。
ところで、メタボを改善させるためには、食習慣の改善や運動などによるダイエットが必要。アメリカで大々的に実施された実験では、あるダイエット法によって、多くの人が血圧も尿酸値も下げることに成功しました。以下で詳しくご紹介します。
アメリカで行なわれたDASHダイエットとは?
アメリカのメイヨークリニックやミシガン大学などが主導し、高血圧の改善を目的にDASHダイエットというダイエット法が試験的に行なわれました。
実験の結果、多くの被験者において、高血圧の低下、脂質異常症の改善、さらには尿酸値の低下を確認。DASHダイエットは、生活習慣病や高尿血症の改善に効果的であることが確認されました。
DASHダイエットで痛風の発症リスクが低減
1986年~2012年にわたり、約45,000人以上もの被験者を対象に、アメリとカナダの共同研究チームにより、DASHダイエットと痛風との関係についての実験が行われました。
被験者は、痛風を発症していない40~75歳の男性のみ。各被験者に対し、4年おきに食事のアンケートを取り、DASHダイエットの実行レベルに応じて5段階にグループを分類。各グループにおける痛風の発症率を比較しました。
26年にもわたる実験の結果、痛風を発症した被験者は1,731名。DASHダイエットの実行率が最も高かったグループは、最も低かったグループに比べ、痛風の発症リスクは32%も低下しました。
研究グループは、この結果を基に次のようなコメントをしています。
「今回の実験は、あくまでも観察実験。科学的な因果関係を証明するものではありません。ただしDASHダイエットは、痛風の発症リスクを低下させるかも知れない魅力的な食事法の可能性があることは示されました」
以下、DASHダイエットのやり方を簡単にご紹介します。
DASHダイエットのやり方
DASHダイエットは、決して難しくはありません。食事において、以下の7つのポイントを意識して過ごしましょう。
塩分を控えめにする
ダイエットのためというよりも、血圧の上昇を防ぐために、塩分の摂取量を控えめにしましょう。1日の塩分摂取量を3.7~5.5g以内に抑えます。菓子類を含め、既製品のあらゆるメニューには塩分が多量に使用されている可能性があるので、成分内容をしてから購入するようにしましょう。
不飽和脂肪酸を増やして飽和脂肪酸を減らす
不飽和脂肪酸は、主に植物由来の油の中に多く含まれています。大豆油やグレープシードオイル、コーン油、アマニ油、オリーブオイル、キャノーラ油などです。青魚に含まれるDHAにも不飽和脂肪酸が含まれています。
一方で動物性の脂に含まれる飽和脂肪酸の摂取は、なるべく控えるようにしましょう。
毎日野菜を食べる
野菜を毎日たくさん食べるようにしましょう。ローカロリーでお腹を満たすことができる一方で、食物繊維、ビタミン、ミネラルが豊富に含まれているため、健康的にダイエットを進めることができます。
低脂肪乳を飲む
牛乳には健康に役立つ成分が豊富に含まれるうえ、血圧調整の作用も期待されるカルシウムも豊富に含まれています。ただし一般的な牛乳には飽和脂肪酸が多く含まれているため、メタボの人が過剰に飲むことは好ましくありません。飽和脂肪酸の過剰摂取を抑えるために、低脂肪乳を選んで飲むと良いでしょう。
全粒粉や玄米を摂る
全粒粉や玄米には食物繊維が豊富に含まれているため、ダイエットには理想的な主食用食材となります。腹持ちも良いので、食べ過ぎを防ぐ効果も期待できるでしょう。
糖質の摂取量を減らす
炭水化物を中心とした糖質の摂取は、過剰にならないよう注意しましょう。食後の血糖値の急上昇を招く恐れがあるからです。パンや白米、菓子類、デザート類などは糖質が高めです。
主食として、普通のパンやご飯ではなく、全粒粉のパンや玄米を選ぶと良いでしょう。
ナッツ類を摂る
アーモンド、ピスタチオ、カシューナッツ、クルミなどのナッツ類が、メタボリック症候群や癌の予防効果を持つ、とする研究結果が多く報告されています。
ナッツ類には高い抗酸化作用があるうえに、善玉・悪玉コレステロールのバランスを整える働きがあるとされています。
高血圧と痛風のリスクに備え、まずはメタボを改善させよう
単純にメタボを改善させたところで、高血圧や痛風を予防したり改善させたりすることができる、という訳ではありません。メタボ・高血圧・痛風の関係は、今後の研究によって、より正確に解明されていくことでしょう。
一方で、結論としては、メタボが高血圧や痛風に深く関与していることも確かなようです。すでに高血圧・痛風でお悩みの人はもとより、健康診断などでメタボを指摘された人についても、DASHダイエット等を通じてメタボの解消を目指すようにしていきましょう。
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